踊り出せない
9月18日(木)。14時から最初で最後のゲネプロである。教室内ではあるが一乗寺フェス会場で使うステージや音響機材をすべて本番どおりに配置して、一通り進行の確認をする。学生たちが用意した台本を確認しながらリハーサルがすすむ。わたしがこの日までに学生と共有したミックスは10バージョンにのぼる(そのたびに「これがベスト」と思っていたのだから頭が悪い)。しかし、それなりにメガ盆用ミックスの作り方のノウハウは蓄積できたつもりである。メガ盆の時間になり、早速先日作ったスプレッドシートを配布して、ミックスの流れと踊りのポイントを説明する。「途中で踊りが裏返ることがありますが、気にせず踊り続けてください……」云々。「それでは一度、踊ってみましょう。太鼓打ちの方はここにあるコンガを代わりに叩いてください……」云々……。なにが起こったと思いますか? イントロがなくて踊り出せない、のでした。
9月19日(金)、最初の曲である国民的アニメの主題歌のイントロを冒頭に足す。踊りだしのきっかけを作り忘れていたとは、どれだけ周りが見えていなかったのか。これは一乗寺住民全員に向けたダンスミュージックなのに……。とは言え、一連の見える化作業をしたおかげで、ミックスのどの部分でフロア(というか公園の踊りの輪)がどういう状態になっているかが手に取るようにわかるという不思議な達観状態に突入することになった。8月終わりから書斎でひとりで踊り続けた甲斐あって、もはやミックスのどの部分で、踊りのどの所作になっているかが身体レベルで分かってしまう──時間を超えるのではなく、複数のスケールの時間を同時に生きられているような、フラクタル的な感覚が芽生え始める。テッド・チャンの「あなたの人生の物語」のような感覚だよ(ってちょうどその頃それを読んでいたからかも知れないけれど)。


